犬へのラブレター「ジュンへ」

ジュンへ

わたしたち家族の
いつも中心にいてくれたジュンへ。
今も中心にいるジュンへ。

あなたが旅だってから、
もう20年以上もたったんですね。

わたしももう66歳。
孫もいるおばあちゃんになりました。

そう。あなたが守るようにそばにいてくれた
わたしの息子二人も、もう家族のいる
パパになったということ。

あなたには本当に恩を感じています。

うちの家族がごたごたになっていたときも、
あなただけが平常心を保ってくれていた。

わたしとおとうさんが、夫婦喧嘩をして
はげしく言い合っているとき、
あなたはわたしたちに言ってくれました。

小さいおとうとが泣いてるじゃないか。
きみたちはこんなに小さい子をほっといて、
何を自分たちのことだけ言い合っているんだと。

あなたはとにかく子どもたちを
守ろうとしてくれていたね。

小さなおとうとを寝かしつけてくれたね。
あの子が寝つくと、トントントンと
二階から降りてきて、
寝たよとわたしに言った。

おにいちゃんも後で言っていました。
お父さんに厳しく叱られているとき、
まあまあ、そこまで怒らなくても、と、
ジュンがお父さんと自分のあいだに立ってくれたと。

お父さんはお父さんで
あなたが大好きで、夜中でも散歩に連れて行っていた。
ジュンはぼうっとしてるから、
ジュンを守るための番犬がもう一匹必要だ、
なんて言ってたね。
お父さんが酔っ払って玄関に寝ちゃってるときは、
あなたが介抱してくれてた。

あなただけが家族全員のことを
見てくれていた。

あなたがみんなの、おかあさんのようだった。

それでもわたしは離婚して、家を出ることになった。
子どもたちとあなたを連れて。

犬の飼えるアパートなんて
その頃はなかったから、
あなたには、わたしが開いた
ちいさなお店の奥の部屋に、
ずっと寝泊まりしてもらいましたね。

わたしがお店からアパートに帰るとき、
あなたがつらそうな顔をしたのを覚えています。
朝行くと、はれぼったい目をしていた。
よく眠れなかったよね。ごめんね。

昼間、わたしがお店の仕事をしているときは、
お客様にも吠えることなく、
ときどきわたしの足元ですやすや眠ったりしながら、
一緒にいてくれた。
それがどんなに心強かったことか。

外に営業に行っているときも、ときどき、
仕事上の、どうしようもない不安におそわれたり、
いやなことばかり考えてしまうときは、
わたしはあなたのことを思うようにしていた。

あなたがうれしそうに公園を走っている姿を思い描くだけで、
わたしは心配を、振り払うことができた。

がんばんなきゃね。
目標をぶらさずに行けばいい。
小さな家でもいいから、
早く一緒に住みたいね。

あなたはわたしにいつも言った。

あなたはお店の奥で4年間、
寝泊りしてくれました。
あなたと一緒に暮らすために
わたしはがんばることができた。

そして、お店からはずいぶん
離れたところだったけど、
小さな家を持つことができた。

初めてあなたを連れていったときは、
うれしかった。

思い出すだけで、涙が出ます。

そう言えば、しばらく後になって、
お医者さんからわたしの胃に
大きな潰瘍の跡があると言われました。
これは大変だったでしょうと。
わたし、ぜんぜん、気付いていなかったんだよね。
あの頃はつらかったけど、
あなたがいてくれたから乗り越えられた。

そして。

雪なんか降らない土地なのに、
めずらしく雪が積もるほど降って、
あなたは生きてきて初めて
雪の中をめずらしそうに
歩いた日がありましたね。

その一ヵ月後、あなたは老衰で
15年の人生を終えました。



さて、あなたが心配してくれていた、
二人の息子たちも、
一時はグレちゃってた時期もあったけれど、
今はなんと、トリミングの先生になって、
犬の仕事をしています。

犬に世話してもらってたあの子たちが、
と思うと、なんだかおかしいでしょ。

そういえば最近、別れたお父さんとも、
ときどき会うようになったんです。

あなたの話をすると、
ジュンにおれはあんな思いをさせて、
わるかったなー、なんて、
涙しています。

今も、ジュンというだけで
家族みんなが集まれる。

あなたの誕生日、3月15日になると、
今も、誰ともなく
ケーキを買ってくるんです。

今もあなたは、家族の中心にいる。

家族の輪がもどるといいな。
あなたが言っている気がします。

波乱万丈でもゆたか。
あなたがいてくれたおかげで、
そういう人生をおくることができました。

ありがとう。

これからもわたしたち家族を
見守ってください。よろしく。

鈴木邦枝
(青山ケンネルスクール 学長 鈴木邦枝)