オチャへ
星になったオチャへ
ぼくがトリマーになって、
14年がたった今年。
ずっと一緒にいて、
ぼくを支えてくれたきみは、
14年の生涯を閉じた。
トリマーの勉強をはじめた頃、
まだ10代だった自分は何もできなくて、
へこんで家に帰る日も多かった。
家で待ってくれているきみを
心の支えにしてた。
仕事場ではなかなか
犬をさわらせてもらえなかったから
トリミングの練習にも
きみがつきあってくれた。
最初は下手だったよね。
こうして一人前になれたのも
ほんとうにきみが
一緒にいてくれたからなんだ。
そんなきみの心臓や肺に
5年前から強敵があらわれた。
きみは辛そうな顔もせず、
敵たちと付き合いながら生きてきた。
でもやっぱり敵は、ここへきて
じりじりときみの小さないのちを
追いつめてきた。
もう無理かもしれない。
苦しませないように安楽死を選びますか。
獣医さんのところでそう言われたときは、
選びませんって、泣いてしまった。
もしかしたら今日か。
もしかしたら今日か。
このところずっと、
仕事をしてても落ち着かなかった。
そして、あの日の深夜2時半だったね。
ろうそくの火がすっと消えるように、
きみはいってしまった。
「かわいそう。おちゃはどこに行くの?」
朝、うちの息子と娘がやってきて、
うごかないきみを見て言った。
「これはかわいそうなことなんじゃない。
おちゃは幸せに生きて、そして、星になったんだ。
ほら、パパだって悲しんでないだろ。」
ぼくはそう言ってた。
でもその日の夜も、その次の夜も曇り空。
息子はずっと空を見ていた。
きみを火葬した日の夜だった。
ついに星空になった。
いちばん輝いている星を指差して、息子が言った。
パパ、あれがおちゃだ!
おちゃ、うちの子たちが
きみに手を振ったのは、見えた?
きみはこれからも、
ぼくらの心のなかのたからもの。
ありがとう。
いつまでも、ありがとう。
トリマー
澤地弘壮
さわちひろたけ