マックへ
ぼくの息子、マックへ
きみのことは、
きみがおかあさんの
お腹のなかにいるときから
見てたんだよ。
エコーで映しだしたら、
まだ親指くらいの大きさの
きみたち兄弟がいた。
そのなかの一匹、きみを
ぼくは譲り受けた。
生まれて2ヶ月のきみは
もう気付いたかな。
ぼくはふつうの飼主さんとは
ちょっとちがう。
そう。動物病院の獣医だ。
街のいろんな犬たちを
診察して、ときには
むずかしい手術だってするんだ。
感情的になってしまっては、
重要な判断をまちがってしまう。
冷静であること。
飼主さんに
落ち着いてもらうには、
まず獣医が落ち着いて
いなければいけない。
つねに、冷静であること。
ああ、
でも、マック。
きみといるときは別だ。
ふつうの飼主どころか、
ふつうよりも甘い、
ただのお父さん。
病院に来る飼主さんたちからも、
先生はマックちゃんに甘い、
ぜんぜんしつけができてない、と
からかわれてる。
もしきみに、なにか、
治療が必要なことがあったら、
ぼくはたぶん、他の獣医さんのところに
きみを連れて行くと思う。
獣医なんだから自分で、
と思うかもしれない。
ちがうんだ。
感情が入りすぎて、
やるべきことが
やれなくなるといけない。
そういうものなんだよ。
さあ、マック、元気に大きくなれ。
きみの名前は、ぼくの大好きな俳優、
スティーブマックイーンからとったんだ。
うちの動物病院のスターになれ。
親ばかって言われちゃうから、
これくらいにしておくね。
では、冷静な獣医にもどります。
つぎの患者さん、どうぞー。
国分寺台動物病院
井上寛